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第1章 霊幻山《れいげんやま》

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第1章 霊幻山(れいげんやま)

赤い。


どこまでも赤い。


目の前にあるのは、全てを覆い、燃やし尽くす灼熱の炎。


大好きだった父。
大好きだった母。
大好きだった兄。
大好きだった、この家。


大切なものが、意図もたやすく灰となり、無残にも果てていく。





――コツ。

ふと後ろを振り返ると、見慣れた『彼』が立っていた。

『彼』は色のない瞳を私に向けていたが、やがて悲しみの色を滲ませ。






「もう大丈夫だから」




そう静かに言って、優しく私を包み込むと、そのまま私をきつく抱き締めた。

耳元に通り抜ける一筋の風で、辺りの景色が一転する。



先程の光景とは打って変わり、視界を埋め尽くす、どこまでも冷たく、どこまでも白い真っ更な景色。


それ以外はなにもない。

どこか無機質にも感じられるこの地だけれど、
物心ついた時から過ごしてきたこの土地が好きだった。


争いや憎しみ、歪んだものとは切り離された純白の世界。






「……そろそろ戻らないと、雪代(ゆきしろ)が心配するかしら」


頭の中で雪代が『あまり遅くまで出歩いては駄目だよ』とたしなめる姿が浮かぶ。


もう少しこの場所で物思いに耽けていたかったところだったけれど
私は踵を返し、その場を後にした。






深雪(みゆき)おかえり。今日もまた雪景色を眺めていたのかい?」

「うん」

「そう。外は危ないから、あまり遅くまで出歩いては駄目だよ」


雪代がたしなめるように言う。

予想通りの対応に、にわかに微笑ましい気持ちになる。



「そういえば今日は何が食べたい? 少し山から降りて、材料を調達してくるけれど」

「じゃあ前作ってくれた……なんだったかしら。野菜がごろごろ入っていて、とろみのある煮込み料理」

「ああ、シチュー《シチウ》かな? 丁度村まで降りた時に、通りがかった店の引き札で見かけたんだ。何が入っている料理か簡単に書かれていたから、完全に自己流で作ったんだけど、おいしかった?」

「うん、とても。今まで食べたことがない料理だったからすごく印象的だったの」



私の目の前に、ふわっと湯気が立ち昇るシチュー《シチウ》の映像が浮かび上がる。


バターで炒めたほくほくしたじゃがいもと、こっくりと甘い人参。

他にもあまり馴染みのない具材が入っていたけれど、
寒さの厳しいこの地に合う、体も心もほっと温まる料理だった。






私達の住むこの地は、今も昔も変わらない、どこまでも白い、雪の世界。

けれど、下の世界ではシチュー《シチウ》以外にも、きっと様々な変化が起きているのだろう。


「……村の方は、少しずつ変わってきているのね」


少し眩しそうな顔をしながら呟くと、雪代が『そうだね』と頷く。


「けれど、同時に危険な場所だよ。特に、俺たちにとっては」

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第1章 霊幻山《れいげんやま》

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