/ 203ページ

神の英雄と人の守護神

(1/25ページ)

神の英雄と人の守護神

 世界が滅ぶほんの少し前、自分は死ぬ。そういう運命にある。
 それを思うと折角朝早く起きて仕込んだ卵たっぷりのサンドウィッチも、砂を噛んでいるように味気なかった。
 なるべく誰にも会いたくないので始発の列車で町を出て、とにかく遠く遠くと目指してこの草原の丘へたどり着いた。軍に入隊して初めての有給申請は許可を待たずに出てくることになったけれど、世界が滅亡することを考えたら馬鹿馬鹿しい。どうせ次の給与振り込みも査定も巡ってくることはない。
 それでも立場上勝手にいなくなることはできなかった。行先をありもしない「実家」とごまかすだけで反抗は精一杯で、列車の終点から息が切れるまで歩いてもまだ街並は遠くに居座っている。「逃げられないぞ」と手を伸ばしてくるかのようで、自動制御のモノレールが逃げ惑うみたいに周回していた。
 二日後にはこの景色が消え失せる。それを思うと視界が滲んで、立膝の間に顔を埋めて泣いた。誰かの耳に届かないとしても、ひっそりと声を殺して泣くしかなかった。
 世界が滅ぶ危機にあっても、空に向かって祈ったりはしない。滅びは空からやって来るからだ。


    

 二十年前、地下層から発見された新種の鉱石によってエネルギー問題が解決したことで先進国に余裕が生まれ、資源を奪い合う国際戦争に終止符が打たれた。
 鉱石のひとつは大気中の因子と結合することで性質を変化させる万能結晶体、オーロラクリスタル。もうひとつは光さえ反射せずその性質を検知できない不定構造体、トータルアモルファス。不明な部分も残るこのふたつの鉱石が反応を起こすことで生み出されるエネルギーは文明を一気に何段も飛躍させた。
 反応によって気化したオーロラクリスタルは電磁誘導によって再結合することで空間に物体を生み出し、トータルアモルファスは凄まじい推進力に転換する。ほんの数年前なら魔法としか思えない現象が日常に定着し、誰もがこの先の華やかな展望を信じた。
 それからごく最近になって、未知の天体が発見された時にも当初は喜ばれた。宇宙船の建造と航行が容易になったことで宇宙開発ブームが起きていたことも大きかった。
 しかしその新たな観測対象が自分たちの住む惑星に衝突する軌道上にあると判明した時点ですべての喜びは反転する。激突すれば地球そのものからして危うい質量を持っているから当然だ。
 遥か彼方から迫る確実な滅亡。人類に残された日数はわずか3日となる。


    

/ 203ページ

神の英雄と人の守護神

(2/25ページ)

みんなが送ったスター数

2

この作品にスターを送ろう!

明日のスターも待ってます!
(1作品につき1日1回 押せます)

新着ピックアップ

急上昇ランキング|ファンタジー