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第1章

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第1章

?この世の中で、一番難しいことは、”我慢すること”じゃないか?

小田尾(おたお)は2月15日になった深夜3時に一人で呟いた。
と、いうよりも闇に問うた。
小田尾は2月13日から徹夜でSNSに張りついていた。
2月13日の夜から14日、日付が変わって15日の夜中まで、さまざまな他人のSNSを眺めていた。
小田尾は《我慢》を探していた。
我慢の美学なんて、いつの時代だよ、と、小田尾は自分でも思う。分かってる。
それでも、小田尾はやっぱり、我慢は美しいと思う。

13日から14日には、SNSに浮き足だった投稿が多かった。
貰ったの、あげるの、貰えなかったの、あげられなかったの、どうのこうの。
そんな中、チョコ? そんなの知らんという姿勢を貫いている男に好感を持ってしまう。
やせ我慢、負け惜しみ、ルサンチマン、別になんでもいい。
《チョコ貰った奴、みんな死ね》と書いてしまう素直さも好きだ。
《バレンタインに踊らされているのはみんな資本主義の犬》とすかしている奴もちょっと好きだ。
《チョコは食えない・・・・・・》という先手の虚勢タイプも嫌いじゃない。
そんな中で、バレンタインのことについて何も触れていない奴、2月14日を日付として、暦の中のただの一日として、やり過ごしている奴が一番かっこいいと思う。

小田尾自身、バレンタインという地獄イベントからはもう、とうの昔に離脱した。
パソコンに張りつき、アニメが好きというだけで、《オタク》というレッテルを貼られて以来、バレンタインが近づくと無意味にどきどきしたり、やさぐれたり、やっぱりね、なんてがっかりしたり、貰えない自分を責めたりーーそんな感情の浮き沈みがさっぱり消えた。
あらかじめ、世の女性は自分のことを誰も視野に入れていないからだ。
部屋の中で株の取引をし、ほとんど部屋を出なくなった。
もはや、オタクのレッテルがどうこうというより、物理的に世の中の女性と接触しなくなった。いや、別にいやらしい意味じゃなく。
道ですれ違うこともなくなった、という意味だ。
だって、ずっと部屋にいるから。
まぁ、会うのは出前を届けに来る女店員くらいだ。
あとは、コンビニの店員。それくらいだ。
それくらいの接触でも、正直に言えばほんの少しは幸せになれる。

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