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第一話 三十年越しの清算

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第一話 三十年越しの清算

 グレーのスーツに身を包み、いつも通り髪型もきっちりと整えた。背筋を伸ばした姿勢を心がけ、書類が詰められた重い鞄を涼しい顔で持ち運ぶ。
 向かった先は病院。入院患者用に作られた複数階層の中でも上の階に位置する個室だけの階層。その一室に目的の人物がいる。
「失礼します」
 ノックをして一呼吸、扉を開けて中に入る。個室と言っても金持ち用の大きな部屋ではない。部屋の中はベッドとトイレ。そして身の回りのものを置くための棚に備え付けのテレビだけ。
 ベッドにはやせ細った一人の中年男性が横たわってこちらを見ていた。
「……どちら様?」
「初めまして弁護士の長谷川裕一郎といいます」
「弁護士? 弁護士さんがどうして僕のところに?」
 男性は怪訝そうな顔をしながらこちらを見ている。彼には弁護士が訪ねて来るような心当たりはないのだろう。自分が依頼をするか誰かから訴えられない限り、弁護士とはそうそう出会うことはない。
 もちろんこちらも彼との接点は今のところない。全くの初対面だ。彼のこの反応も至極当然のことだ。
「実は本日は営業にやってきました」
「営業? 弁護士さんが?」
 弁護士が営業をすることはある。しかし一般的かといえばそうではない。弁護士と営業という二つの言葉に一般人が接点を見出せないのも無理はない。

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