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 脳みその奥にじゅわぁ、と疲労がしみ込んで、呆けて今の今やっていることがこつん、と抜けた。空白の刹那を軽く頭を振って追い出して頭を再起動し、後片付けをやっつける。夢中で一仕事終えて、どうにかこうにか一山越えた、それは心地よい充実疲労だった。
 そして一瞬後、それを死ぬほど嫌だと思った。
 僕が僕自身を投げ打つのがこの仕事である現状に、自分以外に向けようのない憤りを覚える。何者にもなれずこの場で燻る情けない僕の怠惰を恨んだ。
 仕事に罪はない。んなこたぁ解ってるさ。胸張って命張ってこの仕事をする奴だっている。零細企業の弱小事業である分、ひとりひとりの存在感はでかいし、向き合えば面白い仕事でもある。僕は通信販売のウェブサイトを管理し、煩雑なシステムを操り、顧客からの電話の対応をこなし、物流に奔走し、月末には経理の真似ごとまでする。備品を発注して切れた蛍光灯を取り替えたりもする。管理業務から雑用までこなす、バイトだがそれなりの戦力だ。頼りにされているのもわかっている。
    

 それでも僕はここの一員であることが僕の身分証明だとは思えないし、諦めきれず後生大事にポケットにしまってある思いを、ガムの包み紙と同じようにぽい、と捨てることができないままでいた。
 雑居ビルの重いガラス扉を開けて新宿駅へ向かう。遅い日没をそろそろ受け入れる街はまだほの明るい。僕は細波に転覆しそうな気分を持て余し、倒れないように楔を打ち込むみたいに、カナルのイヤホンを耳に突っ込んだ。
 歩道の模様。
 色とぼやけた輪郭でできたおばけみたいな人の群れ。
 視力0.0七、裸眼の僕の世界が音を際立たせる……。
 音楽は流れ、何度聴いても新しいそれは穏やかなくせにいつも人の心臓をえぐっていく。
 ……理屈じゃない。
 いくらアナライズしてみせても、行間をさぐり作者の胸の内を暴いた気になっても、誰かが示した正解を頼りにしても、がつんと心臓に喰らう一撃の正体は判りゃしない。軌道すらみえないパンチが飛んできて、一体何がこんなにも揺さぶってくるのやら、なされるがまま、打ちのめされる。歌が鳴る。声がよくて、鋭い言葉が美しいメロディに乗る。感受性が鋭い筈だなんて脆弱な自信を奮い立たせて、いろいろとフル回転で歌にしがみつく。
    

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