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ファインダー

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お前はうちの家系に恨みでもあんのか?半年前に言われたその言葉が、狭い室内で鳴らされた大鐘のように響く。鬱陶しい。

「英輔、後何分くらい?」
その声を聞いて僕の身体は瞬時に痙攣し、寝起きであるかのように現実へ戻った。目の前には普段乗っている京浜東北線の真っ青な座席と黒いつり革が見えた。同時に、不規則な左右への揺れが背骨に伝わってきた。レールの継ぎ目を通過するガタンゴトンという典型的な音も耳に滑り込んできた。その音がいったん収まると、サークル員十数名の雑多な話し声が鼓膜を揺らした。ということは、今は下校の時ではないのか。サークル活動で京浜東北線大宮行きに乗っている。そうだ。思い出した。会長の企画で、旧古河庭園へ向かう途中だ。

    

「ねえ」と隣に座っているユウナが僕の肩を叩いた。それに促され、「…あと7分かな」となんとか僕は答えた。今は日暮里。上中里まではだいたい7分だろう。ユウナは納得して会長に顔を向け、表情筋いっぱいのスマイルで話し始めた。おかしい。秋葉原から電車に乗り込んだ時、ユウナは僕と談笑していなかったか?僕はいつの間に自分の世界に入っていたのだろう。それと会長はいつの間にユウナの隣に座っていたのだろう。乗車からそんなに長い時間は経っていないと思うのだが。まあそれほど僕が退屈そうにし、そしてユウナを退屈させてしまったということか。会話にも「うん」とか「ああ」でしか返していなかったパターンだな。そりゃあユウナも他の誰かと会話したくなる。でも、会長か。

7分ではなく8分経過した後に上中里駅に着いた。会長とユウナが二人横並びで電車を降りていくのを見送って、後輩も含めたサークル員全員が降りていくのも見送ってから、僕はよっこらせと席を立ってホームへ移った。相変わらずホームから見える外の鉄柵には、溢れんばかりの緑が絡まっていた。ここだけ見れば多摩に来たのかと錯覚してしまう。

平日の11時という微妙な時間帯だからかホームには僕ら以外学生はおらず、脂の乗った中年の会社員が数名と将棋でも打ちたそうな高齢者がこれまた数名いるだけだった。少々寂れていて落ち着いた雰囲気が鼻腔をくすぐる。雨上がりの土っぽい匂いも心地よい。涼しげだ。しかし駅から少し歩いて大通りに出ればビル街、都会に出てしまう。大学周辺と同じく、空気が暑くゆらめく。まだ6月だというのに今年は汗ばむ程度には暑い。半袖一枚でもよかったかもしれない。

    

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