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「神は残虐である。人間の生存そのものが残虐である。そして又本来の人類が如何に残虐を愛したか。」 ――江戸川乱歩『残虐への郷愁』   ***  古びた木製の作業机の上に広げられたボール紙、そこへ前脚と後ろ脚を大きく広げて仰向けになったジャンガリアンハムスターの胴体へ、少女は一本ずつ裁縫針を刺していく。柔らかな毛皮と、弾力を持った肉が貫かれ、ぷっくりと赤い血が溢れてきた。  すでにハムスターの身体には十本近い裁縫針が刺されている。そのうちの四本は両の前脚と両の後ろ足に刺され、ボール紙へと磔にする形になっていた。身を貫く針が一本追加されるたびに生贄はY字型の口を歪めて齧歯を覗かせ、耳障りな鳴き声を上げる。  それでも彼女は手を止めない。まるで手芸でもしているかのように軽やかな手付きで小動物の身体に次々と穴を開ける。机の上に広げた高校の裁縫用具セット、そのピンクッションに刺した針は数を減らしていった。  長針、短針を使い切り、ついには鮮やかな花びら飾りのついた待ち針さえもハムスターの体へと突き立て始める。  その待ち針も最後の2本になると、彼女は少し名残惜しげに考え込む。  そして、思案の末に、両方とも小さな眼球へと刺した。もうすでに弱って反応の鈍くなっていたハムスターも、眼球を破壊されて失明した瞬間にはさすがに苦痛で大きく身体を波打たせる。  ビクビクと痙攣する白い毛玉。全身を穴だらけにされた哀れな生贄はどう見ても致死量の血液を失っていた。毛と毛の間に流れゆく幾筋もの赤い脈。
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