25615人が本棚に入れています
本棚に追加
/2263ページ
応急的な処置だけど、何もしないよりはマシだ。
鞘を添え木代わりにして前腕から手首までをがっちりと固定する。
肘の曲げ伸ばしには障害とならないけど、手首は動かせない。
元より、腕を折られた影響からか、手首を動かそうとするどころか、指を動かそうと力を篭めただけでも激痛が走るのだが。
これではとても剣なんて握れない。
でも今はこれでいい。
握ることができなくてもいい。
ここに来る前、オルトーが言っていた。
自分の腕がどうなってもいい、と。
料理人として生きる彼にとって、その腕を犠牲にしても厭わないという覚悟を持っていた。
オルトーの覚悟を分けてもらうよ。
俺も、今ここで腕が動かなくなってもいい。
それくらいの犠牲を覚悟しなければならない。
右手と鞘を固定した錬術のロープは、腕に巻いたまま更に伸ばすことができる。
両手から伸びる錬術のロープと、剣。
それが、俺に残された武器だ。
「……ガディ……、手を出すんじゃねぇぞ。あの黒髪は俺がやる……!」
先ほどの醜態がよほど屈辱だったのか、歯軋りをしながら構えるレニウス。
その言葉に、ガディは呆れたように溜め息をつく。
「好きにしろ。私はあの女から意識を離さないようにしておこう。闇属性持ちはどこに隠れるかわからんからな」
どうやらガディは成り行きを見守ることにしたようだ。
が、いつでも加勢できるように警戒しているのか、錬術の剣は納めていない。
よくよく見ると、この世界で一般的によく見るような両刃の剣ではなく、片刃で若干の反りがある、まるで日本刀の造りに近いように見える。
「ショーゴ、いつもの連携で。私が撹乱して、あなたが動きを止める……」
ミスティが俺の隣に立ち、小声で耳打ちする。
いつものように……依頼をこなしてきたときのように、ミスティが相手の攻撃を掻い潜りながら撹乱して、その間に俺の錬術で動きを止める戦い方。
それがきっと一番理に適っているのだろうけど……それは体調が万全のときの話で、今のミスティじゃ無理だろう。
「……いや、できれば少し離れててくれ。……下手したら巻き添えにしてしまうかもしれないから……」
俺の錬術は大型の野獣を持ち上げることもできたんだ。
それに、以前よりも意思を伝えることもできている。
最初のコメントを投稿しよう!