新たな力

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応急的な処置だけど、何もしないよりはマシだ。 鞘を添え木代わりにして前腕から手首までをがっちりと固定する。 肘の曲げ伸ばしには障害とならないけど、手首は動かせない。 元より、腕を折られた影響からか、手首を動かそうとするどころか、指を動かそうと力を篭めただけでも激痛が走るのだが。 これではとても剣なんて握れない。 でも今はこれでいい。 握ることができなくてもいい。 ここに来る前、オルトーが言っていた。 自分の腕がどうなってもいい、と。 料理人として生きる彼にとって、その腕を犠牲にしても厭わないという覚悟を持っていた。 オルトーの覚悟を分けてもらうよ。 俺も、今ここで腕が動かなくなってもいい。 それくらいの犠牲を覚悟しなければならない。 右手と鞘を固定した錬術のロープは、腕に巻いたまま更に伸ばすことができる。 両手から伸びる錬術のロープと、剣。 それが、俺に残された武器だ。 「……ガディ……、手を出すんじゃねぇぞ。あの黒髪は俺がやる……!」 先ほどの醜態がよほど屈辱だったのか、歯軋りをしながら構えるレニウス。 その言葉に、ガディは呆れたように溜め息をつく。 「好きにしろ。私はあの女から意識を離さないようにしておこう。闇属性持ちはどこに隠れるかわからんからな」 どうやらガディは成り行きを見守ることにしたようだ。 が、いつでも加勢できるように警戒しているのか、錬術の剣は納めていない。 よくよく見ると、この世界で一般的によく見るような両刃の剣ではなく、片刃で若干の反りがある、まるで日本刀の造りに近いように見える。 「ショーゴ、いつもの連携で。私が撹乱して、あなたが動きを止める……」 ミスティが俺の隣に立ち、小声で耳打ちする。 いつものように……依頼をこなしてきたときのように、ミスティが相手の攻撃を掻い潜りながら撹乱して、その間に俺の錬術で動きを止める戦い方。 それがきっと一番理に適っているのだろうけど……それは体調が万全のときの話で、今のミスティじゃ無理だろう。 「……いや、できれば少し離れててくれ。……下手したら巻き添えにしてしまうかもしれないから……」 俺の錬術は大型の野獣を持ち上げることもできたんだ。 それに、以前よりも意思を伝えることもできている。
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