同行者はチャラ男

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 春。  桜は散らなかった…。  非常に残念だ。無念である。  もちろん俺は普通に受験勉強もしたし、普通に入試も受けた。  わざと手を抜くことなどしなかった。  ――そんなことをしようものならあの兄が黙っているわけがないので、面倒を避けるためにも俺は兄の学校を約束通りに受験したのだ。  ただ、俺の与り知らぬところで奇跡がおこって、幸運にも不合格通知が来ればいいのに、と世の受験生に喧嘩を売るような他人任せな神頼みをしたくらいである。そして、この世界の神様も俺の味方ではないと判明しただけだ。ホントがっかりだよ、神様。  ――そんな不届きなことを思っていた俺に天罰が下ったのか。 「ない…」  入寮当日。  学園の最寄り駅で下車したところで、自分の財布がなくなっていることに気づいた。  家を出る時には、確かに上着のポケットに入れた。  ここまで来るための交通費をそこから出しているので確かだ。  ――ということは、 (落としたか、……まさかと思うがスラれた?)  どちらにせよ、元勇者失格ともいえる大失態である。  自信喪失。自分にがっかりである。もう勇者は廃業だ。いつまでも過去の栄光に縋っているのは俺だった。もう魔王を笑えない。俺はなんてダメな勇者なんだ。  普段、ポジティブシンキングな俺であるが、時々なにかのスイッチが入ったように落ち込むことがある。  そういうときは生きているのが辛い。 (……幸先悪いし、もうこれは行くなってことかもしれんな)  なんとなく暗示めいたものすら感じる。  元々心から望んで行く高校じゃない。  どちらかといえば、自分の意志というよりも兄の口車に乗せられた感が強かった。  未だに迷いがないわけでもないのだ。  ここはもう引き返せと誰かが俺に最後のチャンスを与えてくれたのではないだろうか?  今から暮らすことになる学園の方角を遠い目で眺めつつ、かなり後ろ向きな思考に陥る。  駅から学園まではタクシーで行くように言われていた。  当初は夫婦で送ると言ってきかなかった両親だが、家から学園までかなり距離があるし、加えて寮にはすでに身内である兄がいるし、一人で大丈夫だと断った。  ……なのに財布を無くしてちっとも大丈夫じゃない俺である。きっとサ○エさんもこんな気持ちだったに違いない。
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