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神谷神社から戻ると、避暑地にある秘湯を訪れて心身を浄めていた。
8月を機に予想外の出来事が多く、肉体的に成長期のわたしは、疲労を感じていた。
鵺のこと、聡ちゃんのこと、凛音やリナ、謙一のこと……
周囲が思うよりずっと幼いと思っている。あまり深く関わらないようにしてきたつもりでも、人はひとりでは生きられない。人だからこそ、絡み、繋ぎ、結ばれる“縁”が大切だと教わってきた。
学校の池が封印の場所だったことに全く気付けなかった自分を責めた。
古の天変地異に対応した麒麟は、自らを礎に封印した残像が瞼に焼き付いている。
どんな気持ちだっただろう。
お腹に宿った命を最優先に考えた。もうひとりの麒麟に未来を託して。
生きて人生を全うしたかっただろうに。自我よりも世界を、感情より理性を選んだ麒麟は闇に葬られたのだ。
誰も語らないままに。
誰にも悟られないままに。
もうひとりの麒麟は、黄泉で輪廻に抗い停滞したのだろう。
自身をやり直したかったのだろうか。
それとも筋を通したかっただけだろうか。
「でも同情はしない。輪廻に身を任せれば、今生で再会出来たはず。現在なら理に従い逆の立場だったはず。わたしが犠牲に彼が四象を統べる存在になったはず。
……何故?」
【困難に遭遇した時には詠うのが一番だよ、かのん。】
智夏が正午の鮮紅を降り注いだ。
「ありがとう。そうするわ智夏。」
一瞬で想いを馳せて歌声で問いかけていた。
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