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「あの人誰なんだ?」
「…私の大事な友人だよ。お前も小さい頃会ってたんだぞ?」
「覚えてない。」
「…そうか…。」
ここまで元気のない姿は見たことない。
俺の親父は、いつも笑ってて、何を言っても動じない人だ。
なのに、今は泣いてしまいそうなほど悲しんでる。
……そんなに大事なのか…?
俺にはわからない。
俺は前を見つめた。
そこには一枚の写真がある。
そこに写っているのは、儚く笑う、とても美しい人だった。
でも、その写真は良いものじゃない。
遺影として、置かれている。
……まだ若そうなのに…。
俺の母親よりは若いだろう。
綺麗な黒髪、大きな瞳、泣きボクロが印象的なその女性は、どこか悲しんでるように思えた。
……あんま見てたい写真じゃないな…。
遺影だから当然だろうが。
******
「雅邦さん、蒼子さん。」
親父が二人の夫婦に近づく。
そして何かを話し始めた。
何を話してるのかはわからない。
ただ、ただ一瞬だけ聞こえた。
" 椿 "
それは俺の中で、何故か大きな存在感を放っていた
。
……にしても暇だな…。
俺はコッソリと親父から離れ、外に出た。
……何もないな…。
辺りには参列していた大人がいるだけ。
俺はため息をついて、大人のいない所へ行った。
「…誰だ?」
そこには一人の女の子がいた。
ほんの少し色素が薄い髪をした、ふんわりとした感じの女の子。
黒いシンプルなワンピースは、女の子を引き立てるかのように、女の子にとても似合っていた。
まだ後ろ姿しか見ていないというのに、俺はその女の子を美しいと思った。
……いくつくらいだ…?
見た感じは四から六歳くらいに見える。
けど少しだけ大人びた雰囲気もあり、とにかく、俺は女の子に釘付けになった。
「……。」
俺は意を決して女の子に近づいた。
あともう少しで女の子に触れそうな距離くらいになる。
けど、女の子は全く俺の存在に気づいてなかった。
……取り敢えず…挨拶…か?
俺はゆっくりと口を開いた。
「お前誰だ?」
「……。」
女の子は俺に気づいて、振り返った。
ポカーンとした表情で俺を見つめ、どう返せばいいのかわからないといった感じだった。
……挨拶じゃないな…。
俺も驚いている。
俺は一言「こんにちは」とでも言うつもりだった。
なのに口から出た言葉は「お前誰だ?」だ。
……絶対に変な奴だな…。
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