渾身の一作

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「美樹とも話したんだけどね、栞奈さん。決して怒ったりしないから、美樹の印象を教えて欲しいんだ」 白髪の混じった父親が、温和に話しかける。 しかし、誰も目は笑っていない。 ウソは止めよう。小春は覚悟を決めた。 「大変失礼ですが、わたしは美樹さんと同じ病気にかからなくて良かったと思いました。もし、美樹さんと同じ境遇だったら、わたしも学校に通えなくなると思います。正直、命を絶ってしまうかもしれません。その意味で、美樹さんは強い人だなと思いました」 たった数分しゃべっただけなのに、ものすごく疲れた。 美樹さんの瞳に大粒の涙が浮かび、次々と流れていく。 お母さんが背中をさすっていた。 「ありがとう。桂大が言っていた子のイメージそのものだったよ。自画像を、できれば流行の話題とか、たまに話相手になってもらえないかな?」 お父さんが優しく言った。 もう壁は存在しない。 お互い、ガードが下がったのだろう。 学校がある日はたまに休日で。 夏休みに入ったら本格的に描くと約束してスケジュールを決める。 『絵の具代』として熨斗袋を渡された。 小春は何度も辞去したが、美樹さん本人が「ぜひ受け取って欲しい」と言ったので根負けしてもらうことにした。 30万円。こんな大金初めて見た。 お金の問題では無いと知りつつも、本格的な『仕事』にしようと誓った。
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