11月18日土曜日

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   「まったく、バットという道具は球を打つものであって、人間の頭をカチ割る武器ではない。  ペナルティとして没収だ」  まるで教師みたいな口調でそう言う赤間部長の声を聞いて、えっ…と思った森田が顔を上げたときには、赤間部長は槍投げの要領で思いっきり振りかぶると、海にむかってバットをブン投げていた。  ちょうどこの庭園の外れは、太平洋側の切立った崖の近くに位置していたので(それだからこの場所は人気もなく、あまり整地もされていないのだろう)青い空に弧を描きながら、木製バットは、何度か岩場にぶつかる高い音をさせて、おそらくは海へと落ちていった。  「…部長、海に人工廃棄物を捨ててはいけません」  「まあいいだろう、木製なんだからいつか自然へ還るさ」  バットを捨てた赤間部長は、満足げな表情で海を眺めていたのだが、やがて森田のほうへ向き直ると、にやりと悪い笑顔を浮かべた。  江蓮だったらまったく気にならない程度のものだが、森田はその笑顔を見て、思わず背筋がゾッとした、…なんか、嫌な予感がする…。  「さて森田くん、そこで安らかにお昼寝している亡霊は、どちら様なんだろうな?」  そう言うやいなや、まるで汚いものを触るときのように赤間部長は、靴先で蹴るようなカンジで、うつ伏せに倒れている『仮面の亡霊』を仰向けにさせようとする、それを見た森田は慌ててそれを遮るように『仮面の亡霊』へ手を添えた。  「いくらなんでも部長、それは乱暴です、僕が上に向かせますから」  看護師さんのようにテキパキと森田は、よいしょと『仮面の亡霊』を仰向けにさせた。  『仮面の亡霊』の体は重かった、ごろりと反動をつけながら地面の上を転がって、まさに死体のように大の字の格好で、顔を天に向けた。  「うわ、仮面をつけてますね、この人…」  「当然だろう、『仮面の亡霊』のコスプレなんだからな、『仮面』は欠かせないアイテムだ」  コスプレって…と思いながら森田は、亡霊の『仮面』を剥ぎ取ろうとしている赤間部長の様子を見守った。  
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