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第二話『ぐりとぐら』中川季枝子・作/大村百合子・絵
部室の中に紙を繰る音が響く。
古びた長机をはさんで斜め向かいに座る先輩は今日も物憂げに瞳を伏せて、本を読む。
はらりと黒い艶髪が肩の上を流れて垂れる。それを白磁のような指先がかきあげて耳にかけた。
やがて先輩は艶っぽいため息とともに、手にした本を閉じる。
長い睫毛に縁取られた黒い瞳をぼんやりと窓の外へと向ける。
儚げなその顔はあたかも己の運命が導く先を憂う亡国の王女のようで――
「食べたいわね、カステラ」
机の上に置かれた、横長大判の本を手のひらで愛おしそうに撫でる。
さほど厚みのない白い装丁の表紙には、青い服と赤い服を来た二足歩行の野ねずみが、仲良くひとつの編み籠を下げて歩く姿が描かれている。
『ぐりとぐら』中川季枝子・作/大村百合子・絵。
福音館書店から出版される児童向けの童話、つまりは絵本だ。
「先輩は本当に何でも読みますね」
「文学に貴賤はないわ」
「今日に限って言えば、その言葉には諸手を挙げて同意しますよ」
時折、そうとも言えない本を持ち込むのがこの先輩の悪癖でもある。
それはさておき。
「懐かしいですね『ぐりとぐら』。よく読み聞かせをねだったもんです」
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