第二章

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ただ、黙って、 何度も何度も…髪を優しく撫でてやると、 亜里の嗚咽が、少しだけおさまってきたように感じた… 部屋の中では静か過ぎるほどで… 拓斗は指先に感じる柔らかい髪の感触と、そのほのかな香りに、 眩暈がしそうだった。 この期に及んで俺は何を… 浮かぶ嘲笑。 自分を叱責するように、小さく息を吸った。 『亜里……泣いているのは、俺のせい?』 緊張していた、拓斗の声は掠れている。 亜里の身体がわずかに跳ねて、 俺は間を開けずに言葉を紡いだ。 『亜里…顔、あげて…』 『………』 亜里は無言でフルフルと首を振る。 『顔、見せて、』 亜里が、嫌だ、と、もう一度首を振る。 『亜里っ、こっち見て、』 少し強い口調で述べれば、 『むっ、無理っ…』 涙混じりの声が耳に届いた。 拓斗は無言で、顔を覆っていた亜里の両手首をそっとつかむ。 ハッと息を飲む気配。 でも、もう、俺は止まれなかった… 細い、亜里の手を左右に開く。 涙で頬を濡らした亜里の顔。 目があって、 亜里は必死に拓斗の腕を離そうと拒んだけれど、 力で勝てるはずもなく、 『離してっ』 懇願するも、 『ごめん、無理、』 俺は、強く言い切った。 亜里は泣いてる顔を見られたくないのか、 さっと俺から、顔をそむけた。 ズキンと痛む胸の痛み。 俺を見ようとしない亜里に、 切なさと、悲しさと、言いようのない感情が渦を巻き、 『亜里っ、』 苛立ち交じりにその名前を呼んだ。 つかんでいた亜里の腕から、ゆっくりと力が抜けていくのがわかった。 俺から逃げることをあきらめたのか、 ゆっくりと顔をあげ、 俺を見る… ドクンと、俺の心臓が大きく戦慄いた…
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