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「ばーちゃん!」
少年はもう一度叫ぶ。
大声を出せば森の住人達に狙われるということに気がつかないのか。
いや、パニックに陥った幼い彼にはそこまで考えられる余裕がないのだ。
「ば、ばーちゃあん、かーちゃん、とーちゃん……うぅ、エルにーちゃあん……」
立ち止まった少年の目からは大粒の涙。
森の肌を覆う枯れ葉に涙が次から次へ、ぼたぼたと落ちていく。
しばらくその場で泣いていたが、少年は暗い森の中を歩きだした。
それはとても頼りなく、弱々しい足取りで。
「あっ」
木の根に爪先を引っかけた彼の小さな体が宙に浮く。
こうして転んだのは何度目だろうか。
膝もヒジも小さな擦り傷だらけである。
ぐしゃぐしゃの泣き顔を上げると、少年の目が丸くなった。
大きな瞳の中で光が反射して揺らめく。
よく見ると、少し先に灯りが見える。
村の大人だろうか。
暖かな光に少年は小さく安堵の息をもらした。
膝の痛みに顔をしかめながら起きあがると、その光を目指して歩きだす。
自然と歩みが早くなっていく。
パチッと炎がはぜる音が耳に届いた。
茂みから飛び出そうとしたそのとき、
「あー、オヤジの遊び好きには勘弁して欲しいモンだ」
焚き火の近くにいるだろう男の声に、少年は足を止めた。
若い男の声なのだが、村人ではないようだ。
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