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黙ったままの私の手を引き、響さんはメモリーに戻る。
緑の気に迎えられると、内なる苛立ちがゆっくり消えていく。
ドアベルの余韻が消える間もなく、響さんは私を強く抱き締める。
「君を不安にさせているのは何?」
私の髪に顔を埋め、悲し気に囁く。
「こんなに近くにいるのに、君を遠くに感じる。胸が苦しくて仕方がない」
苦しいのは私も同じだ。
「……これが恋愛の第一段階ではないのでしょうか?」
相手の心が分からず思い悩む、恋とはそういうものだろう。
「不安や苛立ちが? この苦しさが? 恋愛中の世界はピンクと相場は決まっているだろ?」
少し背中を逸らし、響さんの顔を見る。
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