神の英雄と人の守護神

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神の英雄と人の守護神

 世界が滅ぶほんの少し前、自分は死ぬ。そういう運命にある。  それを思うと折角朝早く起きて仕込んだ卵たっぷりのサンドウィッチも、砂を噛んでいるように味気なかった。  なるべく誰にも会いたくないので始発の列車で町を出て、とにかく遠く遠くと目指してこの草原の丘へたどり着いた。軍に入隊して初めての有給申請は許可を待たずに出てくることになったけれど、世界が滅亡することを考えたら馬鹿馬鹿しい。どうせ次の給与振り込みも査定も巡ってくることはない。  それでも立場上勝手にいなくなることはできなかった。行先をありもしない「実家」とごまかすだけで反抗は精一杯で、列車の終点から息が切れるまで歩いてもまだ街並は遠くに居座っている。「逃げられないぞ」と手を伸ばしてくるかのようで、自動制御のモノレールが逃げ惑うみたいに周回していた。  二日後にはこの景色が消え失せる。それを思うと視界が滲んで、立膝の間に顔を埋めて泣いた。誰かの耳に届かないとしても、ひっそりと声を殺して泣くしかなかった。  世界が滅ぶ危機にあっても、空に向かって祈ったりはしない。滅びは空からやって来るからだ。     
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