第五話 癒えない傷

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「どう考えるかはあなたの自由です。けれどそれが現実です」  お嬢様はそう言い残すと地下室を出て行った。残された僕はさらに一回記事に目を通した。四回も読めば簡単に記憶してしまうほど小さな記事。読み終わると薄暗い地下室の天井を仰ぎ見る。  母子家庭で育った僕は貧しくていじめられっ子だった。そんな僕はいじめに負けないと気丈に振る舞っていたが、それがいじめをエスカレートさせていった。母親に心配をかけまいと気丈に振る舞っていた分、心が折れてからの僕は廃人も同然だった。なんとか僕を立ち直らせようと頑張る母はある日、自宅で倒れてしまった。外界との接触を恐れた僕はすぐに救急車を呼べず母は死んでしまった。  母親を失ったことで僕は全てがどうでもよくなった。怖かった外にもふらりと出て行って、死に場所を探していた。その時、あまりにも異様な様子だったためお嬢様に声をかけられて今に至る。  母親の葬儀も全部お嬢様に取りはからってもらった。どれだけ感謝しても感謝したりない。この恩は僕が生きている限り、僕がお嬢様の役に立てる限り返し続けるだろう。 「……死んだ……」  新聞を四回読んだ。しかし感情は特にない。ただもう終わってしまったのかという虚無感だけが心に残る。まだまだ終わらせるつもりはなかったので残念だ。  いじめっ子にはお嬢様に助けを借りてきっちり復讐を果たした。人生を転落させ、明るい未来を奪ってやった。惨めな生活をずっと続けて、一生をかけて罪悪感を背負い続けるものだと思っていた。そんないじめっ子が簡単に自殺をして死んだのだ。  あれだけ怖かったのにあっけない最後だ。だからもう何お感情もない。あんな小者のために精神を疲弊させることは無駄なのだ。僕の生きる理由は全て、お嬢様のためにあるのだから。
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