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カーテンは閉まっているが、その隙間から射し込む光が目の前の壁に反射して眩しくて、目が覚めた。
どれだけ眠っていたのだろう?
頭の上の棚から目覚まし時計を取ると、もうお昼とは呼ばない時間だった。
「おはよ。よく寝たね」
リビングに行くと、ソファに座った美冬さんが微笑んだ。
その笑顔は、いつも俺の胸の奥を柔らかく包んで離さなくなる。
でも、俺はいつもどうしたらいいか、分からない。
「おはよ」
俺はその視線を真っ直ぐ見られないので彼女の隣に座った。
リビングはさっきの陽射しがたくさん射し込んでいて、それなりに暖かかった。
「ご飯は?」
そう聞きながら、美冬さんが俺と視線を合わせる様に顔を向けてくる。
「いや、まだいいや」
俺はその視線から逃げ気味に答える。
「後で何か作るよ」
「そう?」
「うん」
俺はそのまま、陽射しにつられるように外を見たまま座っていた。
横では、きっと美冬さんが俺を見ながら柔らかく微笑んでいるはずだ。
いつもこんな感じだ。
確かにもう5年一緒にいる。
でも、実は今まで、一度も美冬さんに触れたことはない。
いや、触れられない。
なぜなら……
『彼女は婚約者の帰りを待っている』
からだ……
あれは5年前、やっと独身寮を出られて、住む家を探していた俺がここを不動産屋と内覧に来た時のことだった。
2LDKだが築年数が古いために思ったより安い物件だった。
仕事柄、多分、寝に帰るだけになるので、古くてもいいと思っていたが、実物を見てみるとそんなに悪くはなかった。
でも、その時はまだ他も見てみようとは思っていた。
内覧を終えて、外に出て不動産屋が鍵を掛けようとした時、ケータイに掛かってきた電話で彼が「すみません」と言いながら離れて行った。
仕方なくドアの前で待っていると、後ろから声を掛けられた。
「あの……」
「はい?」
それが美冬さんだった。
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