隣の人は

1/4
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/60ページ

隣の人は

 はて、今、何と言ったかね。わしは年のせいで耳が遠い。源蔵の孫だと言ったな、すまぬが、もう一度わしの耳元でゆっくり言ってくれるかね。  川村祐一とな? 源蔵の屋敷を貸したその男の行方を探しておると。その男がどうしたのか?  長らく空き家になっておった、源蔵の屋敷を借りる酔狂者じゃ。こんな、爺や婆だけの狸やら狐やらが闊歩する田舎に、好んで住むだ若者じゃ。何かやましいことがあるに違いないと、わしはにらんでいたのだがね。  ……そんなやましい事をするような者ではないとな? ここ数日、その男の行方が掴めず、近くの駐在さんと共に、隣のわしの所にたずねに来たと。  で、その男を最後に見たのは、何時かとな。  わしがその男を最後に見たのは、二週間程前のことじゃ。その男は、大きな荷物をバイクに積んで、しばらく留守にすると言って、朝早う出て行った。その男のバイクなら、一昨日の昼頃、山菜採りから戻って来た時に、屋敷の前にあるのを見たな。  ……なあ、源蔵の孫よ。その川村とやらは、一体、何者なんじゃね。あの男、月の半分は屋敷におらんし、いたらいたで、朝早くからとか、夜中とか、ずっと庭にいるのが、どうも気味が悪くてな……     
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!