人よ神よ鬼よ

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気高く美しい女中は言った。 「人に正直な者は、嘘吐きよりも強い。 自分に嘘を吐く者は、他者に嘘を吐く者よりも弱い。 ……自分に嘘を吐く者が最も弱い」 その言葉で、果てしなく続くピエルの暗転した人生に、光が差した。 ピエルは女中に心から惹かれ、すべての勝利を彼女に捧げた。 俗世の男の大抵は、性や富や名誉、あるいは家族や眷属のために戦うが、彼の場合、稀だった。 ……ただ、愛する人に褒められたいがために戦った。 それが、無類の力を発揮し、そういう才能をピエルは持っていた。 しかし、彼の想い人は人間の男と駆け落ちをした。 再びの絶望を知ったピエルは、それでも女中の言いつけを守り、この城で宴を続けた。 その生体活動が停止しようとも、彼はこの城に存在し続けた。 あるいは、ピエルがそういう政事(まつりごと)が得意だったから、身代わりに、と女中は城をあとにし、城はそれを許したのかもしれない。  
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