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「おい久坂、何のつもりだ!」
「貴方を行かせる訳にはいきません。栄太郎はきっと私達の話を聞いてしまったのでしょう。小春さんの故郷が端から無いこと、未来から来た者だということ……」
「あいつは小春のとこに行ったんだぞ!? 連れ戻してくる!」
「なりません! よく考えてもみてください。今晋作が止めたところで栄太郎が諦めると思いますか!? いえ、諦めないでしょう」
話を盗み聞きしていた時点で、〝あの状態〟でこちらに乗り込まずに小春さんの元へと真っ先に向かった辺り、今までとは訳が違う。覚悟が違うのだ。
つまりそれは───
「このまま栄太郎を無理に抑え込み、藩を抜けるなどということにもしなったとしたら、今晋作にとって一体どちらが得になりますか?」
「……久坂てめぇ、俺を脅す気か!?」
「今はこのまま見守るべきでしょう」
もし栄太郎が藩を抜けることになったとしたら、損をするのは晋作だ。栄太郎は長州の者でも無いただの浪人になる。そんな栄太郎が浪人になっても晋作にわざわざ手を貸すとは思えない。
けれども今、栄太郎に行かせて小春さんを引き取れば、そのような可能性は殆ど無くなる。
今はただ見守ればいい。
「ったく!! 覚えてろよ久坂!」
そう言い、晋作は手に持っていた刀を畳に投げつけるように乱暴に置いた。
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