奇跡の数

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「恋愛病棟?」 思わず、うどんを箸から落としそうになった。 白衣にカレーが飛ばないか、ただでさえ慎重に食べ進めているというのに。 何とも言えないネーミングに素っ頓狂な声が出た。 「何ですか、その……使い古したAVタイトルみたいな名前」 向かいで同じくカレーうどんをすするのは先輩ナースの玉岡さん。 「うちの病院。よそからはそう呼ばれてるんだって」 にやにやと可笑しそうに笑う。 30間近になっても女子は女子、噂好きは落ち着かない。 玉岡さんは明るく誰とでも仲良くなれる性質で、だから彼女の頭上にはあちらこちらにアンテナが張られているらしい。 「そりゃ、そう呼ばれても仕方ないけどね。だって現在の総看護師長は前院長の、副看護師長は現院長の……で。病棟の看護師長なんてほとんどみんな、現役医師の中の誰かと、ね」 愛人、という単語は使わないまま話す彼女。 ってか。 単語は使わなくても丸分かりの内容で、最早隠す意味があるのか、とさえ思う。 「4階の師長さんは、谷先生と、なんだって」 「…まじですか!」 さすがに、それには身を乗り出してしまった。 谷先生は、内視鏡部長で。 私は内視鏡室の専属勤務だった。
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