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「なあ、オマエさ、好きな奴とかいんの?」
夕焼け色の空の下、幼馴染のあまりに唐突な質問に僕は少し面食らった。
「・・・何、急に」
「いや?なんか気になってさー」
と言いつつ誠は飲みかけのパックジュースのストローをくわえた。
緋田誠。すなおで思ったことをすぐ口に出す、僕の幼馴染。物心ついた時からずっと隣にいて、互いのことを何でも知っている関係。昔から誠はこうして何の脈絡もなく話題をふってくるわけだけど、それにしたってこれはいきなりすぎやしないだろうか。
「別に」
「別にってオマエ、それじゃどっちかわかんねえ」
「・・・ウソつけ」
別に、っていう時の僕の考えてることくらい、絶対わかってるはずなのに。
なんでわざわざそういうことするかな、と僕もいちごミルクのストローをくわえた。
「ん、なんか言ったか?」
「なんでも。いないよ、好きな子なんて」
「へー」
適当に相槌を打ちつつ音をたててジュースをすする誠。僕に好きな人がいるとかいないとか、あんまり興味ないみたいだ。
・・・聞いてきたのは、誠なのに。
でも誠だから仕方ないか、と空っぽのいちごミルクをくずかごへ放る。とん、という柔らかい音を残して、それはかごに吸い込まれていった。
「誠は?」
「聞かなくてもわかるだろー?」
そう言って答えをはぐらかそうとする誠。たしかに、答えなんてわかりきってる。どれだけ一緒にいるかわからないほど一緒にいるから。
だけど。
「僕もさっき言わされたよ」
「あーわかんねえとか言わなきゃよかったかなー」
誠は珍しく自分の発言を後悔しているようで、日に焼けた手の中からパックの潰れるような音が小さく聞こえた。そんな姿が面白くて、僕はさらに追い詰める。
「で、どっちなの」
ほんの少しの、希望をかけて。
誠はうーとかあーとか言いながら紙パックを手でいじりだした。そして小さくたたんだ後、ゴミ箱の中に投げ入れる。それは陽の光に照らされながら、綺麗な放物線を描いて消えた。
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