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一歩、店内に足を踏み入れる。
近付くごとに、涙が溢れそうになる。
この時間を狙ってきたのは私なのに、今は『どうして』という思いでいっぱいだった。
だって、開店準備をするにもまだ早すぎるのだ、この時間は。
私と一瀬さんが過ごした、一日の中の僅かな朝の時間。
「おはようございます、綾さん」
カウンターの向こうにいるその人は、少し以前より前髪が長めな気がする。
だけど優しい無表情で、目が合うとほんの僅かにだけ口角を上げる。
私が好きだった、一瀬さんの笑い方。
「お、おはよう、ございます」
「お久しぶりです」
「はい、ご無沙汰して……」
言いたいことはたくさんあるのに、聞きたいこともあるのに。
二年前の朝の時間を再現したような空間に、頭は真っ白になってしまった。
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