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傘をさして、絢子さんと並んで歩く。 着いたのは道を挟んだ向かいにある家だった。 大きな洋館、きっと金持ちなんだ。 玄関を開けて、中に入れてくれた。 玄関と言っても、俺が思っている玄関ではなかった。 一段上がった、上がり框がない。 俺がどこで靴を脱ごうか悩んでいると、 「ここで脱いでね。このマットより先が土足厳禁なのよ」 大きくて高そうな玄関マットを指さして言った。 言われた通りに靴を脱いで、俺には大きなスリッパを出してくれた、素直に履く。 「お風呂はこっちよ」 玄関からまっすぐ伸びた廊下の先に階段があり、二階へ続いていた。 俺は廊下の左右にある部屋の、右側に通された。 そこはキッチンだった、大きなテーブルもある。 その奥にある扉を絢子さんが開けた。 本当の、バスルーム、だ。 広い部屋に、トイレも洗面台もある。 湯気がもうもうと立ち込めていた。 「主人のパジャマだけど、使ってね」 いつの間に用意したんだろう、洗面台に置かれたふわふわのバスタオルとパジャマが目に入る。 「あの、俺……」 場違いなところに来た、それはすぐに判った。 俯く俺の頭を、絢子さんが撫でてくれた。 「大丈夫よ。今夜はゆっくりしていってね」 そうか、今夜だけか。 漠然と明日には施設に戻るんだと判った。 不慣れな西洋式のお風呂に漬かる。 慣れないけど、施設の戦争状態で入る風呂よりかはずっと落ち着いた。 ほかほかになった体をいい匂いのするパジャマに包んでそこを出ると、絢子さんがキッチンに立っていた。 「ああ、やっぱりパジャマは大きすぎるわね」 それでも半袖、半ズボンのものをわざわざ出してくれたんだ。 確かに襟首から肩は出そうだが、これしかなかったのだろう。 つまり、この家には子供はいないのか? 俺くらいの歳の子が、居ても良さそうな……。 「もう少しでご飯ができるから、ここでも、そちらでも、座って待っていて」 ここ、はキッチンのテーブルだった。 そちら、が気になったので、廊下の反対側の部屋に入ってみた。 そこだけでも、施設の食事室くらいはあるだろうって広さのリビングだった。 しかも、暖炉で炎が燃えている。 初めて見るそれに、俺は興味津々で近付いた。
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