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ミンミン、と煩いセミの声。
熱いコンクリートから生まれる陽炎。
きっと今日も30度を超えている。
(暑すぎンだよ)
ヒロユキは院内に生えている樹の影を見つけては駆け足でそこを目指していく。
時折散歩中のじいちゃん、ばあちゃんに会うけれど、そこで行き倒れないかと心配になったものだ。
学生鞄をもう一度肩に掛け直し、ヒロユキは顎に伝った汗を拭うことなく大きな総合病院へと。
―――ぴん、ぽん。
全盲者の為に鳴る音と共に開く自動ドア。
(うお、涼しいぃ)
クーラーの効いた病院から来る風を浴びてヒロユキは一瞬目を細めた。けれどそこで立ち止まることはせず、
「こンちは」
病院の受付に顔を出せば慣れたものですぐに通される。
「お姉さん、来てるよ」
「はーい」
ナースの声を背中で受けながら速足でエレベーターに乗り込む。そして目的の階へと着き、ある部屋の前で足を止めた。
「消毒消毒・・・」
まず部屋に入る前に手を消毒。最初はこの匂いに慣れなかったけど、もう嫌でも慣らされた。そして。
「よっしゃ」
頬を両手でパンと叩き、スマートに横開きする扉をノックすれば向こうから「どうぞ」と声が掛けられる。
「お邪魔します」
ヒロユキはガラガラとも音がしない扉を開き、中へと入って行った。するとそこにはナースに言われた通り、姉――スズネが椅子に座っており、その弟――トオルが白いベッドで横になっていた。
「ヒロちゃん、こんにちは」
「こンちは、スズネさん」
「いつもありがとうね」
スズネは立ち上がり、椅子をこちらへと渡す。
「いつもいいって言ってんのに」
「相手はヒロちゃんだもの。二人で沢山喋ってちょうだい」
その言葉にヒロユキは、はは、と微妙な顔をしながら笑っている間に、スズネは横になっているトオルに「ヒロちゃん、来てくれたわよ」と声を掛けて。
「じゃぁ、私ちょっと病院の先生と話してくるから」
自由にしててちょうだいね。
いつものように部屋を出て行った。
シン、と静まる病室内。クーラーの音も静寂の手助けをしていて、まるで白い世界に取り残されたような気分だ。
ヒロユキはここでやっと顎に伝っていた汗を白い制服で拭い、スズネに渡された椅子に座った。
目の前には横になって眠っているトオルの姿。
「よぉ、トオル」
ヒロユキはその白い世界に取り残された病室で、声を掛ける。
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