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「拓真!どこだ!!」
蓮はありったけの声を絞りだし、暗闇に呼び掛ける。
しかし階段の上からも下からも返事はない。
「どこだ!!返事しろッ!!」
むなしく闇に吸い込まれる叫び。
「先に行った気配はないわ。暗闇ではぐれたのよ。」
…はぐれた?
…研究室を出て、道はこの階段しかなかったのに?
「…戻りましょう。」
…はぐれた可能性…
…扉を強打する音…
「…俺は…まさか…やはり……」
蓮は頭を抱えた。その様子に由佳と美紀も気付く。
「……まさか!」
「…!!」
美紀が悲鳴とも言えない声を洩らす。
蓮は研究室に向かって階段を駆け降りだした。二人も蓮に続いた。
螺旋状の階段、蓮は暗闇の中で何度も壁に体をぶつけた。
痛みは無かった。両手を闇に伸ばし、手探りで壁を伝い、蠢くゴキブリがその手に触れる。
足が小刻みに回転し、階段を駆け降りる。
階段の終わり、それに気付かず蓮は派手に転び床を滑る。途端に鍵束がけたたましい金属音と共に床に落ちた。
蓮は直ぐに起き上がり、暗黒の空間を探る。金属音がした方向に手を伸ばし、鍵束を拾うと、今度は手探りで壁を伝い、扉まで戻った。
幾らか亀裂が入っている様だが、今だに強固に扉は閉まっている。
あの、地獄の底から沸き上がる様な轟音は止んでいた。
蓮は鍵を開ける。
と、同時に由佳たちが追い付いた。携帯のディスプレイが暗闇を踊る。
「蓮!拓真は!!」
蓮は扉を押した。だがあまりに固く扉はびくともしない。
「手伝ってくれ!!」
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