昂りと開戦

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―それは突然で目まぐるしい展開だった。 仁哉はそれに何かを思い止まるというよりも、衝動的に動いていた。 唐突に殺害を行った美幸を捕らえようと迫るが逃げられ、目の前に横たわる生涯の親友が瞳を閉じて事切れる様を見届けるまでの一部始終を。 仁哉は動かない誠斗の血で汚れた両手をしばし呆然と眺めながら、喉奥は乾き、汗をうっすらとかいては、いまだ冷めない昂りと呼応して沸き起こる、胸中に秘めたどす黒い殺戮衝動を半ば他人事の様に感じるしかなかった。 しばらくの静寂の後、突如仁哉の脳内から、久しぶりの厳かな声が響いたのを感じ取った。 『…主よ。憎いであろう?憎しみは押さえ込むのではない、総て曝け出し解放するのが宜し。 我が力を貸してやろうぞ。』 以前に聴こえたその声は、今は抗いがたい程に強く、そうして仁哉を急き立てた。 仁哉には未だそれに嫌だ、と反論する意思があったが、しかし目の前で倒れ伏した血まみれの親友の亡骸をまじまじと眺めながら、それを凌駕する敵への憎しみと殺戮衝動が膨らみ堪えきれなくなっていた。 「俺はア゛」 一言開きかけた声は低くしゃがれ、仁哉は薄れゆく意識の欠片が目の前の景色を記憶し、そして消されると同時に深い眠りに堕ちたのを感じ取った。 「こりゃ派手にやったなぁ!」
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