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まずはくだんの魔術陣でも眺めて我に返ろう。
えーと、なになに?
属性は悪。
方角は下弦。
象徴は鍵盤、子宮、黒の絵具……
9th Area ultimate
“第九世界の魔王を指定する”
「な! ちょっ!?」
思ったよりとんでもねえこと書いてやがりますね!? 俺ビックリだ。
すぐ下にいるセイがグイグイグイと俺の肩を脱臼させようと必死に引っ張る。
「どうしようっ」
いや……
どうもこうもない。
陣を見たあとだと俺はむしろ冷静に返り咲くことができた。
「安心しろ。この魔術陣は失敗だ」
ちょうどいいし、現場の警団たちにも聞こえるようにトーンを上げとくか。
「残された文章からだと、製作者は第九世界の魔王を召喚しようとしたことになる。だけどな、魔王は一切の選択ができない。作法が間違ってるんだから、この魔術は欠陥品だよ」
魔導言語ってのは文法として後から後へと情報を追加していくのが基本だ。場所、色、時間、形、大きさ、性質、象徴、術者の状態、発動時の命令。そういったものをどんどんと増やしていく。
そこへ、種類は同じだが内容の異なる二つの情報が混ざるとエラーに繋がるわけだ。
たとえば《魔王》のように「対象」を表す単語。
どういうことかと言うと、通常の異世界召喚では開く《ゲート》が狭すぎるらしいのだ。原則、魔王を召喚する際には第十五世界から第一世界までを一括して指定し、ゲートの規模を最大級に設定する。いわゆるターゲットレス。この方法を取ると結果はランダムになってしまう。
じゃあ、ゲートを大きくしてから第九世界を指定すればいいじゃん、と思うかもしれないが、さっきも言った通り単語が重複すると誤作動が生じて魔術はキャンセル扱いになる。それは詠唱法でも同じ。唱えている途中で別の魔術に変更したくなった場合は始めからやり直さないといけないのだ。
それを踏まえて、改めて魔術陣を見ると……
「魔術陣が壊れてるって聞いたから、バックドライブかと思ったが……うん」
オーバードライブ(暴走)の方だったな――って、そこまで言っちゃうと立場が危うくなることに気付き俺は言葉を濁した。
こればかりは、実際に魔王召喚を企てた数少ない愚か者にしかわかるまい。
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