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◇◆
暦は七百年の初頭。
麗かな陽射しに包まれ、緑が続く平野は花々や小鳥の囀る声に溢れていた。
現実世界でいうところの春にあたるだろう。
辺りを山に囲まれた辺鄙な場所にぽつんと建つ、小さな木造の小屋。すぐ傍には白い四弁の花が咲いていた。
その小屋から赤子の産声が上がる。
――
――――
「やはり予言の通りに……」
茶色い翼にゆるりとした髪と目のオルクスは何処か沈痛な面持ちで言う。
その言葉が向けられたのは、金髪碧眼、白い翼を携えたニールスの男。
どちらも、年の頃は人間にして二十代後半といったところだろうか。ニールスの男からは、色褪せた布地の服装におおよそ隠しきれない気品を漂わせていた。
簡素なベッドに身を横たえた女。瞳と同色の茶色い髪はひとつに結わえられ毛布の裾からは窮屈に茶褐色の翼が姿を覗かせている。
隣には同じく毛布にくるまれた赤子が居た。
男は赤子をその手に抱き上げ、先程のオルクスの言葉に相槌を打つ。
「ああ。だがこの子は誰の手にも掛けさせはしない」
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