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「政秀!!政秀!!」
そこにあいも変わらず、木刀を持った濃姫が豪快にやってきた。
「おお濃姫さま、今日はこの爺の番ですかな?」
ここに輿入れしてかの濃姫は、信長の不在時は毎日、家臣と木刀仕合に明け暮れていた。
最初は信長側近誘宵、前田利家隊の旗頭”鈴音”一番隊”まちこ”二番隊”罪花”組頭”総史”と連日戦いを挑んできたのである。
皆一様に誘われると思った時間には隠れるようにいなくなるのだが、この平手だけはちがっていた。
信長、信秀と同じく濃姫を可愛がっていたのである。
「皆一様にこの時間になるといなくなってな……右手もこの時間になると必ずいなくなるし」
「おおそれは、薄情ですな……ではこの平手がまたお相手致しましょう。
誘宵、主も付き合うか?」
誘宵は丁重にこれを断った。
いい意味で、濃姫の剣術は肩破りなのである、本来ある礼法も無視をするし、とんでもない所から一撃をあたえてくるなど、付き合う身としてはたまったものではないのが現状であった。
平手はゆっくりと起き上がると、濃姫が持ってきた木刀を貰うと庭に向かった。
「あら、今日もまた戦の真似事ですか?
正室としての役目すらしないで、毎度毎度剣術稽古、ほんとうに獣から生まれた娘ではないのかしら……」
廊下に出た二人に声をかけてきたのは、信長の母であり、信秀の正室の土田の方であった。
「これは母君、おはようございます。」
濃姫は土田の方の嫌味を聞き流すと、儀礼的な挨拶を交わし、その場から離れようとした。
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