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「産まれて初めて、自分の爪の間に黒い垢が溜まったのを見て、あたしは声を出して泣いた」
過去を語るなか、赤城は自身の爪を見る。
今でこそ手入れされ、ピンク色に輝く健康な爪。
しかし彼女が見る視界には、垢の溜まった醜い爪が映っていた。
「どんなに取り除いても、爪そのものが、カサカサに荒れててね。自身のどん底を実感した瞬間だったわあ」
それにあたし、昔、髪の毛長かったのよ?
彼女は自身の髪のつけ根を少し持ち上げ、突然そう言った──。
──屋敷の中をさ迷う浮浪者。
訳の分からない言葉を発し、不潔な格好をした黒きメイド。
それでも屋敷の仕事を行う。
一族の奥様と大奥様が怖くて、誰も彼女に手を差し伸べられない。
外法者に命じられた仕事は掃除のみ。
掃除、掃除、掃除。
自分の髪の毛を雑巾代わりに。
自信に満ち溢れた自慢の長い髪、煌く艶、線の集大成。
「ぎゅっきゅっ、じゃっじゃっ」
赤城は突然、謎の擬音を発する。
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