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その外装のほとんどは、背後にそびえる山から雪崩れ落ちた白雪に包まれ、辺りを冷やしている。
雪のゆりかごに揺られ、屋敷の形状は誰もが目を見張るかたちとなった。
長門は厳正過ぎる正義の男によって、破滅の道を歩み始める。
終わりの直前、奇少は超空へと回想し、その家族にひとときの残酷な夢を見せようとしていた。
屋敷内三階、南の位置。だった場所。
崩れたアドリアのプールで、1人の女が現実から目覚めた。
木製の水上バルコニーで目覚めたその女は、自身が知る景色とはまったく違う異国の景色を見回す。
「……どこぞ、ここは?」
薄暗い向こうには見慣れない建造物が並び、プールと呼ぶには造り込まれた運河が、街の建物の間を血管のように巡っている。
女の知る時代には存在しないベネチア(威尼斯)の景色だった。
しかし今は所々が崩壊し、床の煉瓦にはホコリが漂っている。
女の格好は鎌倉の時代、武家の女が外出する際に着る壷装束(つぼしょうぞく)だった。
着物の丈は長く、腰に紐を結び、腹周りを外に出している。オレンジ色の着物に、緑のラインが目立つ。
本来なら、その頭にかぶる笠の形によって、壷と呼ばれる格好の由縁となるが、薄い布をたらした笠は、彼女の近くに落ちていた。
「ほう。これは何だ?」
笠を拾った女は、さらにもう一つ何かを見つけた。
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