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ちょっと話のペースが落ちると、冷静さも今更ながらに戻ってくる。
よくよく見ると、先生は私に合わせてくれていたのかもしれない、と気付いた。
少しの沈黙、盃を傾けるその横顔は案外理性的だった。
「まぁ、最初は心配したけどね。近頃は元気そうで良かった」
「ありがとうございます」
「ん?」
「色々と…見ていてくださったんだなぁと思って」
そう言うと、先生は横を向いたまま、ふっと頬を綻ばせる。
先生がこういう時目を合わせないのは、照れているのだと最近になってわかった。
「君は内視鏡室の一員だし、僕は内視鏡部長ですから」
「はい」
その言葉に、職場の仲間だと認めてもらえた嬉しさと。
それに相反する、きゅっと下唇を噛みたくなるような。
この、切なさの正体はなんだろう。
「せんせぇ…」
「ん?」
私は、胸にこみ上げるものに逆らいきれず、テーブルに突っ伏した。
「……きもち、わるい…です…」
「はっ?ちょっ…玉岡さん!ゴミ箱!か何か!」
先生が慌てて少し離れた場所に座ってた玉岡さんに助けを求めたが。
話のペースが落ちて、急に酔が悪いほうへ回ったのかもしれない。
ともかくも、その日私は愚痴だけでなくいろんなものを先生の前で吐き出した。
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