18.幻の崩壊

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 ナディルは頷き、そして言った。 「ファルグレット侯爵一族は、出奔しました。侯爵自身がアーヴァーンに戻らぬ限り、アーヴァーン王家としては、カジェーラ殿に手を差し伸べることは出来ないでしょう」 「侯爵自身って、それ、エリュースのこと……?」  ガガが、遠慮がちにナディルにささやく。  ナディルは黙り込んで、ガガの質問を無視した。 「未来のオーデルク大公どの。報いるとは? 私もナディル王女と一緒に、オーデルクに連れて行ってくれるということかの?」  カジェーラが訊ねると、フィリアスの臣下たちの間に、緊張した妙な空気が急降下する。  不安げに眉をしかめ、何か言いたげに口を開けたまま、彼らはフィリアスとカジェーラを見守った。 「もちろん、来てくださってかまいませんとも。オーデルクには、大公家付きの魔法使いは現在おりませんからね。ここくらいの広さもなく、花畑も付いていないかもしれませんが、屋敷も用意致しましょう」  フィリアスが明るく答える。  フィリアスの臣下たちは、慌てふためいた。  カジェーラは、ふふっと笑う。 「冗談じゃ。そなた、家来たちの顔を見たであろうが。絶句しおったぞ」  カジェーラに一瞥され、オーデルクの人々は慌てて目を伏せる。 「たとえ何代か前の大公の元婚約者であろうとも、そして冠を取り戻すのに尽力したとしても、私は彼らにとっては恐ろしい魔女じゃ。私をオーデルクに連れて行くということは、揉め事の種を持ち込むのと同じことぞ」 「ですが、あなたには何かして差し上げたいのです。ぜひとも」  フィリアスが言う。  カジェーラは、やさしくはかなげな少女の顔で微笑んだ。 「その気持ちだけで十分じゃ。私に残された時間は短い。私はその時間を私の使いたいように使う。静かにひとりでここで過ごし……そして最後にやらねばならぬことがあるしの」 「やらねばならぬことって何だろ?」  ガガが、首をかしげた。
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