ルール その47

18/34
13192人が本棚に入れています
本棚に追加
/2020ページ
 そんな彬を見やってか、志摩子はことさら優し気に微笑みかけてきた。 「お正月、唯人がそちらにお邪魔してたんですって?ごめんなさいね、正月早々に。迷惑だったら遠慮なく放り出してよかったのよ?」 「迷惑だなんてそんな、雪かきも手伝ってもらいましたし、助かりました」 「そう?ならいいけど。周り中に甘やかされて育てられたから、何しても許されると思っているとこあるのよ、この子」 「そんなこと思ってません」  ムッとしたように宮坂が口を出してくる。 「増長するほど甘やかされた記憶もありませんし」  その答えに、志摩子は肩をすくめて彬に向かって意味深に目くばせしてくる。 (ええと、これはどう反応したらいいんだろう)  迷っていると、志摩子の仕草を見た宮坂が先に反論する。 「甘やかすどころか便利に使われてたように思いますけど。散々振り回されて、無茶もやらされましたし」 「なによ。おかげで女の子にモテモテになれたんだからよかったじゃない」 「それは……いまそう言う話はやめてくださいよ」  焦ったようにこちらを見ながら、宮坂がしかめ面をする。  志摩子は素知らぬ顔でのんびりコーヒーを啜った。 「あの、無茶って?」  疑問に思って脇からそっと訊ねると、志摩子が笑いながら「いい男育成プログラム、なんて呼んでたんだけどね」と答えた。 「うちの事務所の子達が寄ってたかって、唯人を完璧ないい男に育てようって奮起してたの。最初は純粋に由梨恵の子育てを手伝おうって気持ちだったのよ。まあ、そのうちにそれぞれが趣味に走る様になってたけど」 「へえ……」  光源氏とか、マイフェアレディとか、そういうものだろうか。  考えながら宮坂の横顔を盗み見る。  宮坂はなんですか、というように眉を上げた。  おそらく子供時代も相当可愛かったろうから、ここの女子社員達がそういう気になるのもわらかなくもない。
/2020ページ

最初のコメントを投稿しよう!