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そんな彬を見やってか、志摩子はことさら優し気に微笑みかけてきた。
「お正月、唯人がそちらにお邪魔してたんですって?ごめんなさいね、正月早々に。迷惑だったら遠慮なく放り出してよかったのよ?」
「迷惑だなんてそんな、雪かきも手伝ってもらいましたし、助かりました」
「そう?ならいいけど。周り中に甘やかされて育てられたから、何しても許されると思っているとこあるのよ、この子」
「そんなこと思ってません」
ムッとしたように宮坂が口を出してくる。
「増長するほど甘やかされた記憶もありませんし」
その答えに、志摩子は肩をすくめて彬に向かって意味深に目くばせしてくる。
(ええと、これはどう反応したらいいんだろう)
迷っていると、志摩子の仕草を見た宮坂が先に反論する。
「甘やかすどころか便利に使われてたように思いますけど。散々振り回されて、無茶もやらされましたし」
「なによ。おかげで女の子にモテモテになれたんだからよかったじゃない」
「それは……いまそう言う話はやめてくださいよ」
焦ったようにこちらを見ながら、宮坂がしかめ面をする。
志摩子は素知らぬ顔でのんびりコーヒーを啜った。
「あの、無茶って?」
疑問に思って脇からそっと訊ねると、志摩子が笑いながら「いい男育成プログラム、なんて呼んでたんだけどね」と答えた。
「うちの事務所の子達が寄ってたかって、唯人を完璧ないい男に育てようって奮起してたの。最初は純粋に由梨恵の子育てを手伝おうって気持ちだったのよ。まあ、そのうちにそれぞれが趣味に走る様になってたけど」
「へえ……」
光源氏とか、マイフェアレディとか、そういうものだろうか。
考えながら宮坂の横顔を盗み見る。
宮坂はなんですか、というように眉を上げた。
おそらく子供時代も相当可愛かったろうから、ここの女子社員達がそういう気になるのもわらかなくもない。
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