#08

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*  真由子が指定してきたのは、渋谷駅に直結したホテルのカフェだった。ガラス窓からはスクランブル交差点が見下ろせる。  たぶん、行き交う人々を眺めているのだろう。真由子はけだるそうに椅子にもたれていた。明るい場所に似合わない女だと思った。 「どうぞ」  テーブルに診察券を置いた。 「座ったら?」  向かいの椅子に腰を下ろす。 「コーヒーでいい? まだお酒を飲む時間じゃないでしょう?」 「すぐに帰るよ」  真由子は俺の言葉を無視して、ウェイターを呼び、ホットコーヒーを注文する。 「終わったはずだろ、俺たち」 「そういうわけにもいかないの。あまり時間が無いのよ」 「時間が無いって、何? 俺に関係ある?」 「私の夫に会って」  とんでもないことを言いだした。来るんじゃなかった、今度はどんな罠なんだ。真由子の闇は想像以上に深い。 「嫌だね、巻き込むなよ」 「本当はもっと若い男でも良かったけど」  何の話をしているんだろう。若い男がいいなら、好きにすればいい。 「神谷くんとの子供が欲しい」  ……え?  お待たせしました、と、コーヒーが置かれる。口をつける気になれなかった。     
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