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スリーデイズアクター
「じゃあ、ラストのキスシーン! 準備はいい?
はい、よーい……」
――パチンッ
演出が手を叩く合図で、演技をはじめる。
王子がシンデレラと結ばれ、愛を確かめるキスをするシーンだ。
「シンデレラ、誰よりも君を愛してる。
幸せになろう」
王子の甘い言葉にシンデレラも愛を囁き、自然と近づいていく二人……になるはずが佳純は動けない。
「ストーップ!! ちょっと佳純!! 何回言われればわかるの? もっと近寄ってって言ってるじゃない!!
佳純のせいで他のシーンの練習が全然できないんだけど!!」
舞台袖から見ていた演出の怒号が飛ぶ。
佳純がこのことで注意を受けるのはもう何十回目だろうか。佳純は何度やっても上手できなかった。キスシーンをしろと言われてもどうしても恥ずかしさが勝ってしまうのだ。
「……ごめん。ちょっと一人で練習させてくれない?」
これ以上迷惑をかけるわけにはいかなくて、佳純は一人使われていない空き教室へと向かった。
そこは演劇部の部室だった場所で、演劇部は数年前に廃部となっているため、今は人があまり来ないスポットとして密かに知られている場所だった。
佳純は上手く行かないことがある時や一人になりたいときがあるとよくその教室で過ごしている。
だから今日も一人。そう思って扉を開けた。
しかし、今日は先客がいたようだ。
白いシャツにブレザーのズボン。上履きの色は緑で同じ学年のはずだが、顔は見たことがない。
風に揺れる黒髪に少し切れ長の瞳。透き通るように白い肌。一言で表すなら“綺麗”。そんな感じの男子。
佳純の視線に気がついたのか、窓際に立っていた男子は佳純を見つめる。
佳純の心臓がドキリと跳ねた。
「えっと、誰?」
佳純は思わず話しかけていた。
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