第2章 部下は会社を辞めたがる

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おれはステンレスパイプを専門に扱う中小企業・北大阪パイプ株式会社に勤めている。 メーカーからパイプを仕入れて、切断や研磨、折り曲げなどの加工を施して、客先である工場や建材を扱う会社に納品する、いわゆる卸売りの業者だ。 社員は50名程度だが、創業以来40年、堅実に業界の中で地位を築き上げてきた、そこそこの老舗であった。 本社と工場は大阪にあり、東京には営業所があるのみ。 東京には営業が7名と事務が3名の計10名が在籍している。 おれは新卒で入社し、今年で8年目になる。 就職氷河期の中、おれの大学は無名だったために就職活動に苦労し、やっと今の会社に拾ってもらえたという形で入社した。 ステンレスパイプは昔から大好きという訳ではなく、むしろ何それ?という感じだった。 しかし、同じ学部の友人たちも苦労している中、やっと得た職だ。 それなりに頑張って勉強し、特に大きな失敗もなかったため、係長になっている。 安藤は、昨年4月に大卒で入社し、そろそろ一年経とうという新人だ。 時代はおれのときと違い、どこの企業も「学生さんいらっしゃい!」という風潮。 そんな中で、彼は中小企業であるわが社に就職した。端的に言えば、就職に失敗した落ちこぼれ、なのかもしれない。 今の自分の待遇に満足していないだろうということは察していた。 しかし、その安藤が退職願いを出した理由は、おれの想像よりはるかに浅はかなものだったのだ。
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