本編

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 楽になるよ。  何の前触れも無く耳に飛び込んできたお姉さんの声は、氷みたいに冷たかった。  ――信号機からお知らせ音が鳴り響いた。  弾かれたように顔を上げると、向かいの歩道の信号機は赤から青に変わっている。  車道側の信号も赤に変わっていて、丁度そこへやってきた車が横断歩道の前でぴたりと止まる所だった。  何となく急かされるように、慌てて横断歩道を渡りきる。  その後でふと、小石を蹴り忘れてきた事に気付いて振り向くと、さっきまで自分が立っていた側の歩道には誰の姿も見当たらなかった。  ただ、電柱の根元に括り付けられたガラス瓶に挿さっている何本かの萎れた花が、風に吹かれてさらさらと揺れているだけだった。
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