最初の森

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 茜色だった綺麗な空には、たちまち暗い夜が重い幕のように落ちてきている。風は木々の隙間を抜け、肌を刺すような冷気が、衣類を無視して千本の鋭い切っ先となって肌につき刺さる。  朝は冷たい小雨が振り霧を発生させ、昼間は太陽に照らされ灼熱の地獄、夜は命を落としかねない凍土になる危険な森の中にふたりの影がある。  片方は顎に手を当てて悩んでいて、もう片方は藁に縋るような思いを滲ませている。 「どうしたもんかなぁ……」 (危険な森にか弱い少女を置いていく訳にいかないしなぁ……でもなぁ……)  ここまで辰也が悩むには理由があった。その理由とは、奴隷を買うあるいは引き取る場合は基本的な生存権の保証。つまりは奴隷に衣食住の保証ができる人間のみ。 要は、奴隷は主人に尽くす変わりに衣食住を保証するって事だ。けど実際は、奴隷を大切に扱い衣食住を保証する主人など滅多に居ないのが現状だと記憶している。 (罰則が重いけど……危険地帯とは言え、一文無しの俺が引き取って良い……のか?) 目の前にいる少女を引き取るのなら、しっかりとした衣食住--と言うより対等な立場の人間として接するつもりではあるが……     
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