5人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
独りよがりなミラクル慕情
道路の両脇に高層マンションが連なるこの辺りは、地下鉄の階段から地上に出ても、まだ地下に居るような気がする。
すし詰めのマンション群が、巨大な蟻塚のように林立していて、そこで暮らす私たち住民は、まるで地を這う虫のよう。
都市の再開発で、首都圏ではこういった地域が増えている傾向があるとはいえ、まだまだ特殊な一帯だ。
なにしろ、六畳一間の狭いボロアパートに住んでいるタカトシにでさえこう言われた。
「見える全てが新し過ぎて、この人工的な閉塞感に息が詰まるよ。人間味もないし、時には圧迫感さえ感じることもある」
悪気がないのは分かるけど、そんな言い方ってない。正直私自身も、良く言えはアーバン、悪く言えば、冷たく硬質な雰囲気だとは思う。
でも私は、30歳になった事を期に、この地域のマンションを購入した。銀行に35年のローンを組んだのだ。
なぜいきなりそんな事をしたのかは、自分でもよく分からなかった。もしかすると、10年交際しても、未来の見えないタカトシとの関係に、ピリオドを打つ意味が含まれていたのかもしれない。
否、彼にそう捉えられる覚悟があったと言うべきか……。
最初のコメントを投稿しよう!