独りよがりなミラクル慕情

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独りよがりなミラクル慕情

 道路の両脇に高層マンションが連なるこの辺りは、地下鉄の階段から地上に出ても、まだ地下に居るような気がする。    すし詰めのマンション群が、巨大な蟻塚のように林立していて、そこで暮らす私たち住民は、まるで地を這う虫のよう。    都市の再開発で、首都圏ではこういった地域が増えている傾向があるとはいえ、まだまだ特殊な一帯だ。    なにしろ、六畳一間の狭いボロアパートに住んでいるタカトシにでさえこう言われた。    「見える全てが新し過ぎて、この人工的な閉塞感に息が詰まるよ。人間味もないし、時には圧迫感さえ感じることもある」    悪気がないのは分かるけど、そんな言い方ってない。正直私自身も、良く言えはアーバン、悪く言えば、冷たく硬質な雰囲気だとは思う。  でも私は、30歳になった事を期に、この地域のマンションを購入した。銀行に35年のローンを組んだのだ。  なぜいきなりそんな事をしたのかは、自分でもよく分からなかった。もしかすると、10年交際しても、未来の見えないタカトシとの関係に、ピリオドを打つ意味が含まれていたのかもしれない。  否、彼にそう捉えられる覚悟があったと言うべきか……。        
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