星月渉

【コメント機能でショートショート】 『41円のメッセージ』 狭いワンルームで、引っ越しの準備をしていた時だった。段ボールの山の中で、黙々と片付けを手伝ってくれていた、もうすぐ夫になる彼がクスリと笑った。 「これ、恵理奈のお父さんが書いたんだよな?」 そう言って彼が差し出したのは絵葉書の束。 宛名はひらがなで、癖のある筆圧のしっかりした文字で、私の名前が書かれている。消印は二十年前。貼られていた切手は41円だった。 「忘れてた。そうだ。小学生の時お父さんが何ヶ月か出張してた事があって、時々ハガキを送ってくれたの」 絵葉書に数行のメッセージ。口下手な父らしく、だいたい文面はいつも同じだった。小学生になったばかりの私が読めるように全部ひらがなで。 べんきょうはがんばっていますか? とか。 おかあさんのおてつだいはしていますか? とか。 おとうさんはげんきです。 とか。 そんな数行のメッセージが嬉しかった。 ふと手にとった一枚を裏返すと富士山の写真だった。そうだ。お父さんの出張先は静岡だった。 出張からようやく帰って来たのに、私にねだられてお父さんは静岡に連れて行ってくれた。富士山を見に行くために。 私は絵葉書の束を一枚一枚眺めているうちに心があたたまるのを感じた。彼はそんな私をそっと見守っていた。 「やっぱり、両親への手紙書いたら?」 お父さんに似て口下手な私は沢山の人の前で話すのは苦手だ。披露宴の定番はやらない事にしていた。 「上手く喋れないかもしれないよ」 「上手く喋れなくても、お父さんもお母さんも、喜ぶと思うよ」 彼はそう言って段ボールの山の中に戻った。 そう言えばお父さんがこんなに沢山書いてくれた絵葉書にいつも電話で返事をしていて、私は手紙もハガキも一度も書いた事が無かった。 今、あの時の返事を書いてみようか。 初めて書く手紙の事を考えて片付けが進まなくなった私をちらっと見て彼はまたクスリと笑った。 お父さん、多分私幸せになるよ。 end .
7件・6件
ネタバレかなφ(..) このように、心暖まるショートショートもいいですね!(^-^) 今、星月さんの「ロンギング」を読んでいる最中のせいか、今回もミステリアスなショートショートを想像してドキドキしながら読みはじめてしまいました。 ハートフルストーリーやハッピーエンドも、大好きです。 いろんなお話をお書きになる星月さんは素敵ですね♪ そうそう、昔は葉書41円でしたよね(^-^)
1件1件
ありがとうございます^ - ^ ロンギング読んでくださってるんですね。嬉しいっ。 更新している物が全体的に今殺伐としたシーンで、 ああ……。ほっこりしたい。自分が(笑)と思って書きました(笑)
年バレですが、山口百恵さんの「秋桜」がBGMになるような素敵なショートストーリーですね(*^^*) 読ませて頂きありがとうございました。
1件1件
ありがとうございます^ - ^ 意外と親に手紙を送る機会今少ないですよね。メールがありますし。 なんかそんな事を思って書きました(笑)
1件
なんか じーんときました…泣
1件
感想ありがとうございます^ - ^ 楽しんでいただけたなら嬉しいです。 (≧∇≦)

/1ページ

3件