夏月 海桜

歴史小説という、敷居が高く思うジャンルに、真正面から挑み、それでいて解りやすい話がここに存在する。時は戦国。織田信長その人と妹君お市の方の物語。学校で習う歴史の授業に必ず出て来る織田信長。その生と最期を知っているせいか、正直あまり興味を惹かれなかった。多分、あまりにも題材にされているせいだろう。視点が妹君の市姫だからこそ、読んでみようと思えた。この思い上がった心を叱りつけ、戒めたのは読み始めて直ぐからだ。本を読み終えて涙するというのは、それだけ、心から物語に引き込まれているからなのだが。今、まさに涙が止まらないままの私は、この時代に生きたかった。と思う。いや、物語では私はこの時代に生きていたと思う。言葉に出来ない程、この時代、織田信長の傍で生きていた気になった。生涯を駆け抜けるような心持ちが読後感だが。涙を流し、どの人物にも共感した。織田信長でも、市姫でも、濃姫でも、秀吉でも、光秀でも、楓でも……。歴史小説を手掛ける方は、歴史そのものを動かさない・動かせないものだ。その中で著者のオリジナルを物語に組み込んで、この世にたった1つしかない、著者だけの歴史小説を紡ぎ出す。その難しさは、おそらく想像以上のものだろう。しかしその大変さを背負いながら、コツコツと書いて完結させた著者様の努力には敬意を払う。著者様は、おそらく歴史小説のジャンルでもトップレベルに入る名手だと思うが、これが書籍にならないのは、おかしい。このあと、織田信長の妻である濃姫の物語を拝読させて頂くつもりだが、この作品と勝るとも劣らない作品だろう。ぜひ、2作品同時に書籍で読んでみたいものだ。それくらい、歴史小説として老若男女を問わず、読むに価する物語だった。様々な人生を体感させて頂き、感謝します。
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