厂原灰人

 学院へ続く大通りから、少しはずれた裏路地に、一軒の喫茶店がある。こぢんまりとして落ち着いた、隠れ家的な雰囲気を纏う店だ。  魔法学院が、迷宮(ダンジョン)に隣接する形で建てられたこともあってか、近辺には一人暮らしの学生や魔法使いも多い。それもあってか、飲食店には需要がある。  けれど、この広い学院都市にも、珈琲を飲ませる店は少なかった。  あんな黒くて苦いもの、好んで飲む人の気が知れない。 「だからマスター。珈琲は要らない」 「たまには飲んでくれても……」 「やだ。苦い」 「……美味しいのになあ」 「マスターの料理は美味しいんだけどね。やめちゃえばいいのに、珈琲なんて」  マスターは、苦虫を噛み潰したみたいな顔になる。  いや――とても苦い珈琲を、喉に流したときみたいな顔、というべきかも。 みたいな。 かみんぐすーん。
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