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「どーしよっかなぁ……」  沈鬱な呟きは、賑やかな昼休みの空気に紛れて溶けていく。 「どーしよ……って!」  眉間に皺を寄せて悩んでいれば、不意に、席へと戻ってきたリョウに頭を叩かれた。頬杖によって支えられていた頭がガクンとずれる。アトは不機嫌な瞳をリョウへと向けた。 「何すんだよ」 「金は貸せない。けど、それ以外なら手伝ってやるよ」 「それ以外って……」  アトの顔がひきつった。  素行こそ悪いものではないが、長瀬リョウは不良である。  それも、コンビニに溜まり、煙草をフカして満足するようなチャチなヤンキーなどでは尻尾を巻いて逃げ出すほどの、地元ではその名を知らぬ者はいないと言える知名度を誇る。 「……リョウって、なんて呼ばれてるんだっけ?」 「不良にか? たしか……悪鬼羅刹、破壊神、魔神、名前を呼んですらいけない人、一本ずつの人」 「あのさ……最後の二つ、特に一番最後の、分かるようで分かんないんだけど」 「ブービーはあの超有名映画のオマージュ、最後のは、アレだ。おれの決め台詞から来てる」 「決め台詞?」  アトは首を傾げた。  そんなアトを前に、リョウはしゃがみ込んで机に両肘を付いた。そして、疑問に傾いだままのアトの瞳を正面から見据え、ニヤリと底意地の悪い笑みを浮かべる。 「ケンカでさ、立てなくなったやつらに、「両手足の指から一本ずつ選べ」って言ってやるんだよ」 「なるほど」  合点のいったアトは、苦笑いを浮かべた。 「それで、本当に一本ずつ折るのか?」 「は? なに言ってるんだよ」 「え?」  噛み合わない理解に、アトは無意識に、リョウは嫌な笑みを浮かべながらわざと首を傾げる。 「相手がさ、小指でお願いしますとか言ってくるだろ?」 「……まあ、小指ならそこまで必要ない……か? いや、人指し指や親指よりはいいかもだけどさ」 「そこで、おれは優しく「分かった、小指だけ残せばいいんだな」って言って、両手足の小指以外の指、計十六本を全部折ってやった」 「お前鬼か!?」  アトが驚愕に声を張り上げれば、リョウは楽しげに笑い声をあげた。 「しかも、折ってやった……ってやっぱり実体験かよ!」 「まあな……途中から一本ずつ折るの面倒になって、全部纏めてへし折ったけど」 「だから、お前鬼か!?」 「ぷ、そんな褒めんなって……くくっ」

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