文令

典型的なお嬢弁と、ひかえめな敬語と、少女らしい自然体の言葉とが交錯する一人称の文体がとても楽しく、いつまでも読んでいたくなる作品。 実質的には幽閉とも呼べる状態にある主人公サラが、植物室に鏡を設置する場面や、靴音を殺して真夜中の城内を歩く場面などは、読んでいるこちらもはらはらしてくる。14歳の少女の視点によって「城」が描かれているためにその存在が見かけ以上に大きな、絶対的なものに見えてくるようにも思える。 作中でサラが自身の中にサナという別人格を作成して独言する描写には、不思議と違和感を覚えることがない。「二重人格ってものなのです私。楽しいからいいですけど」、思春期特有の仇気無い不安定さ、気まぐれ、無邪気などが感じられるとともに奇妙な共感さえ覚えずにはいられない。 さて本短篇はサラの視点中心で描かれている。行間は広く空けられ、各描写は気まぐれな少女のそれで曖昧な点が多い。 特に、世話役リリナには謎が多く、まだ城に来たばかりで城内の通路を間違えるほどの彼女が、どうして主人を裏切ってまでサラに入れ込み、その脱出に加担したのか気になる。そもそも娘を軟禁状態に置くほど厳格な父が、愛娘の世話役に遠い異国の東洋人を選ぶこと自体が不思議である。それが愛妻の母国であるとはいえ。 リリナが肖像に仕掛けられた監視カメラを見たのは「偶然」だったのか? 結局、植物室の鏡を撤去したのは誰だったのか? 植物室に設置された鏡がサラの脱出計画に関連があると知りえた者などいたのだろうか? そしてリリナは何故、終盤になってサラに敬語を使うのをやめ、親しげに振舞ったのだろうか? サラは「今だけは妹のように扱ってくれるんですのね」と解釈しているが、それは本当だろうか? リリナが別れ際に手渡した「(日本の)住所などをいろいろ書いた紙」は一体いつ用意したのか? サラの母親は今どこで何をしているのか? おそらく、これらの疑問に応えるだけの描写をしていたら、この短篇はつまらなくなっていたと思う。14歳の少女を主人公として、説明要素が徹底的に削られた文章だったからこそ、閉鎖的な濃密な世界観の構築に成功したのだろう。もしもこの短篇の主人公がリリナであった場合どうなっていたのか。 それを想像してみるのも楽しい。 僕はこの短篇が好きです。
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気に入ってもらえたみたいで、よかったです(^^)嬉しいです ほめていただきありがとうございます\(^^)/
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とても面白かったです。とにかくサラお嬢様が可愛い(´・ω・`)
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