長渕丈一郎

虫けら (7/7) (これで、すべてから解放される……) 私を縛めている、様々なしがらみから。 終わることのない無明長夜、睡眠薬と酒に溺れる だけの怠惰な日々、自己嫌悪、そして…… 決して結実することのない、深雪への狂おしいほ どの情愛から解放されるのだ。 自らの命を断つ…… それがどれほど傲慢で恥ずべき行為であるか、そ んなことを斟酌するゆとりは、もはや私の疲弊し 切った心にはなかった。 私は弱い人間であった。 ただ、ただ、この憂き世から逃遁したかったの だ。 私の命が、この地上から消えることによって、深 雪は救われるかもしれない。 そんな痴愚きわまりない、自己中心的な観測だけ が、私のこの愚挙を正当化するよすがであった。 遺された深雪が、心にどれほどの傷を負うか…… そんなことは考えてもみなかった。 雨に打たれるほの暗い住宅街の小路を、私は傘を さしてよろよろと歩いた。 (ばあちゃんに会いに行こう……) 朦朧とした私の脳裏に、祖母の慈愛に満ちた笑顔 が浮かんだ。 《完》
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